5S活動の中で「清掃」は、多くの現場で形骸化しやすい要素のひとつです。
「毎日掃除しているのに、なぜか汚れがすぐに戻る」「清掃の時間がただの儀式になっている」――そんな声も少なくありません。

しかし、本来の清掃は“きれいにすること”が目的ではなく、“異常に気づくこと”を目的としています。
本記事では、5Sにおける清掃の本当の意味と、掃除との違い、そして現場で効果的に進めるための実践ポイントを解説します。

5Sの全体像をつかみたい方は、こちらの記事もご覧ください。
➡️ 5Sとは何か?スタートしやすい初心者向け解説ガイド


清掃とは?掃除との違いを理解する

5Sの中で「清掃」は、単に職場をきれいにする活動ではなく、設備や環境の状態を確認し、異常を早期に発見するための重要なステップです。
しかし多くの現場では、「掃除」と混同され、見た目の美化に終わってしまうケースも少なくありません。
ここでは、5Sにおける清掃の本当の目的と、掃除との明確な違いを解説します。

5Sにおける清掃の目的は「異常の発見」

5S活動でいう「清掃」とは、単に“きれいにすること”ではなく、“異常を発見すること”を目的としています。
例えば、油のにじみ・削り粉の付着・工具の欠けなど、普段の清掃でしか気づけない変化があります。
清掃を通じて「いつもと違う状態」に早く気づければ、設備トラブルや品質不良を未然に防ぐことができます。
つまり、清掃は異常の早期発見を目的とした点検活動なのです。

「掃除」は見た目を整える、「清掃」は状態を点検する

現場では「掃除」と「清掃」が混同されがちですが、この2つは明確に異なります。

  • 掃除: ほこりや汚れを取り除く作業。目的は見た目の美化。
  • 清掃: 設備・治具・環境の状態を点検し、異常を発見する作業。目的は正常状態の維持。

例えば、床をモップで拭くだけでは「掃除」です。
一方で、床下に油が漏れていないか、部品が落ちていないかを確認するのが「清掃」です。
見た目を整えるのが掃除、状態を整えるのが清掃と捉えると明確です。

清掃を正しく行うためには、整理整頓の理解が欠かせません。
以下の記事で、2Sや工具整頓の具体的な進め方を紹介しています。
➡️ 整理整頓から始めよう!2Sで製造現場を効率化
➡️ エンドミルやドリルは共用と個人持ちどっちがムダが少ない?
➡️ サトシでムダをなくす⁈エンドミルやドリルの整理整頓のコツ

清掃活動が品質・安全・コストに直結する理由

清掃を正しく行うことで、品質・安全・コストに波及効果が生まれます。

  • 品質面: 異物混入や摩耗などの不具合を早期に発見でき、不良発生を防止。
  • 安全面: 油漏れ・工具の放置など、災害につながるリスクを低減。
  • コスト面: 故障の未然防止による修理費・停止損失の削減。

このように清掃は単なる美化活動ではなく、**「品質・安全・コストを支える基盤活動」**です。
現場で清掃をおろそかにするということは、これらのリスクを見逃すことに直結します。

清掃の3つの効果

清掃を正しく実践することで、現場には「モノ」「人」「職場環境」の3つの面で大きな効果が現れます。
単にきれいになるだけでなく、設備の信頼性が高まり、作業者の意識が変わり、全体として改善のサイクルが回りやすくなります。
ここでは、現場で実感しやすい3つの代表的な効果を解説します。

① 機械や設備の劣化を防ぐ

清掃は、機械や設備の「健康診断」とも言えます。
油汚れ・切粉・ホコリなどを放置すると、摩耗・錆び・過熱といった劣化が進行します。
定期的に清掃することで、機械の寿命を延ばし、突発的な故障を防ぐことができます。

特に製造現場では、汚れの原因=異常のサインであることが多いものです。
「いつもより油が多い」「削り粉の溜まり方が違う」など、小さな違いに気づくことで、設備の不具合を早期に対処できます。
清掃は、結果的に保全コストを下げ、生産効率を安定させる活動となります。

② 不良やトラブルを早期に発見する

清掃を通じて作業環境の異常に気づくことで、品質不良を未然に防ぐことができます。
特に、3定(定位置・定品・定量)の考え方を取り入れると、異常発見がしやすくなります。
➡️ 3定(さんてい)とは?定位置・定品・定量で整頓を維持する方法
例えば、金型の摩耗や工具の欠け、エア漏れなどは、日常の清掃点検で発見できることが多いです。
清掃を行うことで「状態の変化」を見極める目が養われ、品質異常を起こす前に対応できます。

また、現場の清掃を継続していると、異常に対する感度がチーム全体で高まります。
つまり清掃は、品質管理の第一歩であり、「発見力の高い現場」を育てる活動なのです。

③ 職場の意識・モラルが向上する

清掃は環境を整えるだけでなく、働く人の意識を変える力を持っています。
自分たちの職場を自分たちできれいに保つことで、責任感や誇りが生まれます。
「きれいに使おう」「次の人が気持ちよく作業できるようにしよう」という意識が芽生えると、自然とミスも減っていきます。

加えて、清掃の状態はそのまま現場の“心の状態”を映します。
整理整頓された職場では、報連相がスムーズになり、改善提案も活発化します。
清掃を通じて職場の雰囲気が良くなり、人の成長とチーム力の向上にもつながります。

清掃を形骸化させない仕組みづくり

多くの現場で「毎日やっているのに成果が見えない」「続かない」と感じる原因は、清掃を“作業”として捉えているためです。
清掃を定着させるには、責任・基準・仕組みの3つを明確にして、継続できる運用を設計する必要があります。
ここでは、清掃を形骸化させず、改善につなげるための実践ポイントを解説します。

➡️ 5S 赤札作戦は今すぐ始められる!シンプル赤札で整理を実践!
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清掃範囲と責任者を明確にする

まず重要なのは、**「どこを誰がやるか」**を明確にすることです。
担当範囲が曖昧なままだと、清掃漏れや責任の押し付け合いが発生します。
エリアごとに清掃区分を設定し、責任者の名前を掲示しておくことで、実施状況が見える化され、意識が高まります。

さらに、責任者だけでなく「チームで助け合う仕組み」も有効です。
担当が不在でも清掃が滞らないよう、代行ルールを決めておくことで継続性が保たれます。
“個人の意識”に頼らず、“チームの仕組み”で回すことが定着の鍵です。

清掃基準を「見える化」して守る仕組みを作る

清掃レベルを統一するには、基準の明確化と見える化が不可欠です。
「どの状態が清掃完了なのか」を、写真やチェックリストで明示します。
例えば、「機械のカバーを開け、内部をエアで吹く」「床に油染みがない状態を基準とする」など、誰でも判断できる基準を設定します。

また、基準を掲示するだけでなく、実施状況を点検する仕組みを作ることも重要です。
週1回のリーダーチェックや、改善提案を共有する仕組みを組み合わせることで、清掃の質が徐々に上がっていきます。
**清掃の“見える化”=清掃の“定着化”**です。

日常点検・予防保全と一体化させる

清掃を単なる“片付けの時間”にせず、点検や保全と一体化させることで価値が高まります。
清掃時に、油漏れ・緩み・異音などをチェックし、異常があればその場で報告する流れを作ると、自然に点検の文化が根づきます。

このとき、報告書やアプリで簡単に記録できるようにしておくと、清掃と点検が一体化します。
特に中小工場では、紙ベースでも「異常記録表」を壁に貼り、記入・共有を続けるだけでも十分効果があります。
清掃を日常点検と結びつけることで、**「見て終わり」から「気づき・改善へ」**と進化させることができます。

清掃時間が明確でない場合は、まず**「いつ・どのくらいの時間で行うか」**を決めることが大切です。
時間を決めることで、清掃が作業の一部として定着しやすくなります。

支援先では、概ね10分程度の清掃時間を設けている企業が多く、朝一番に実施するケースが増えています
これは、納期や残業の関係で退勤前に十分な時間を取りにくいことが理由です。
また、一日の始まりに清掃を行うことで、仕事への切り替えや集中力向上にも効果があります。

現場で実践できる効果的な進め方

清掃を定着させるためには、単にルールを作るだけでなく、現場で実行しやすい工夫が欠かせません。
作業時間や動線、道具の配置などを見直し、「無理なく続けられる清掃活動」にすることがポイントです。

清掃を定着させるには、仕組みと意識の両面が重要です。
特に「点検としての清掃」をチームで共有すると、現場改善のサイクルが自然に回り始めます。
➡️ 5S活動のコツ!躾を成長に変える仕組み(アイデア)作り

ここでは、現場で実践できる3つの進め方を紹介します。

① 重点箇所を明確にし、改善の起点にする

すべてを一度に完璧に清掃しようとすると、負担が大きく長続きしません。
まずは、不良や故障に直結しやすい重点箇所を明確にし、そこから始めることが効果的です。
例えば、「機械の可動部」「切粉が溜まりやすい床下」「オイルパン周辺」など、異常が出やすいエリアを重点管理します。

重点箇所を決めることで、日々の清掃が“改善の起点”になります。
清掃中に見つけた異常を小さな改善テーマとして扱うことで、現場の問題解決力が高まり、自然とPDCAが回るようになります。

② 清掃記録をつけ、異常の傾向を見える化する

清掃は、記録を残すことで効果が大きく変わります。
どの箇所を、いつ、誰が清掃したかを簡単に記録しておくと、異常の傾向や再発箇所が見えるようになります。
特に、「同じ場所で油漏れが続いている」「特定の機械で切粉が多い」といったパターンは、保全の見直しにつながります。

紙のチェックシートでも十分効果がありますが、最近ではタブレットやスマホで記録を残す企業も増えています。
写真付きで残せば、異常の推移が時系列で把握でき、報告・共有も容易になります。
清掃記録は単なる証跡ではなく、改善のための情報資産と捉えることが大切です。

③ 「清掃=点検」という意識をチームで共有する

清掃を継続的に効果ある活動にするには、意識の統一が不可欠です。
単なる“掃除時間”ではなく、「点検・確認の時間」として捉える文化をつくりましょう。
そのためには、リーダーが清掃中に気づきを共有したり、良い発見を称賛したりすることが効果的です。

例えば、「今日の清掃で〇〇の緩みを早期に発見できた」「〇〇ラインの改善提案が出た」など、
清掃の中から生まれた成果をチームで共有すると、活動の意義が明確になり、モチベーションが上がります。
こうした積み重ねが、“やらされ清掃”から“自発的清掃”への転換を生み出します。

まとめ:清掃は“異常に気づく力”を育てる活動

5Sの「清掃」は、単なる掃除や美化活動ではなく、異常を早期に発見し、職場を安定稼働へ導く活動です。
つまり、清掃の目的は「きれいにすること」ではなく、「正常状態を維持し、異常を見抜く力を育てること」にあります。

清掃を通じて、設備の小さな変化や汚れの原因に気づくようになると、
それは品質不良・機械故障・安全事故を未然に防ぐ“現場のセンサー”として機能します。
このように清掃は、品質・安全・コストのすべてを支える最も基本的な改善活動です。

また、清掃をチームで継続していくことで、現場には「自分たちの職場は自分たちで守る」という意識が育ちます。
やらされ感のない、主体的な清掃が根づいた現場ほど、整理整頓や安全活動、改善提案も自然と活発になります。
つまり、清掃の定着こそが**“改善文化の土台”**になるのです。

明日からでもできることは、ほんの小さな一歩です。
まずは重点箇所を決め、清掃時間を固定し、異常の記録を残してみてください。
継続することで、現場が変わり、人が育ち、会社全体の強さにつながっていきます。

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この記事を書いた人

GFC 上村正和
GFC 上村正和 中小企業診断士・日本生産性本部認定経営コンサルタント・1級販売士

職人一筋、木工加工から精密金属加工までを経験。精密金属加工会社では工場長を務める。現在は、中小製造業を対象に現場が活きる経営のサポートを行っている。コンサルティングを中心にのべ100社の支援実績。「日本の製造業をもう一度世界一にしたい!」という想いで支援を続けている。