5S活動の中でも、最も難しく、そして最も成果を左右するのが「躾(しつけ)」です。
多くの現場では「決めたルールを守れない人がいる」「5Sが続かない」という課題が生まれますが、
その原因は“人の意識”ではなく“仕組みの設計”にあります。
本来、躾とは「指示や注意で人を動かすこと」ではなく、
**「人が自ら動き、成長できるようにする環境づくり」**を指します。
この記事では、5Sの最終段階である「躾」を“人を育てる仕組み”という観点から、
現場で実践できる考え方と仕掛けを詳しく解説します。
躾とは?ルールではなく「習慣」をつくる活動
5Sの中で「躾」は最も誤解されやすい要素です。
多くの現場では「決められたことを守らせること」と捉えられていますが、
実際の目的は**“守れる環境をつくること”**にあります。
躾とは、「ルールを教えること」ではなく、
そのルールを守ることが自然になる“習慣”を作ることです。
つまり、指示・命令ではなく、“仕組みと雰囲気”で行動を導く活動です。
たとえば、
「工具を元に戻さない人を叱る」よりも、
「戻しやすい配置に変える」「写真で正しい状態を見える化する」方が効果的です。
行動が変わるのは、言葉よりも環境です。
このように、5Sの躾は“人を管理する活動”ではなく、
人が自ら動ける状態を設計する活動と捉えることがポイントです。
これが「ルール」ではなく「習慣」を作るという、5S躾の本質です。
躾がうまくいかない現場の3つの傾向
「うちの現場は5Sが続かない」「注意しても直らない」――こうした声が出る職場には、いくつかの共通点があります。
それは個人の問題ではなく、組織の仕組みの問題です。ここでは、躾がうまく機能しない現場に見られる3つの典型パターンを紹介します。
① 指導が「注意・叱責型」になっている
「ちゃんと戻して」「掃除をさぼらないように」という声かけは、一見“教育”に見えても、実際は事後対応(火消し型)です。
本人に当事者意識がないまま注意しても、行動は変わりません。むしろ「また怒られた」という感情だけが残り、改善への意欲を下げる結果につながります。
躾は“叱ること”ではなく、“気づかせる仕掛け”を作ること。
タイミングと仕組みを誤ると、指導はただのルール押し付けになります。
② ルールを厳しくしすぎて、現場が疲弊している
ルールを守らせようとすると、「毎日報告」「罰則制度」「承認印サイクル」など、形式的な管理が増えていきます。
しかし、守りにくいルールは結局、誰も守らなくなります。
躾とはルールを厳しくすることではなく、守りやすくすることです。
たとえば、道具の置き場所が遠ければ「すぐ戻す」は難しい。清掃時間が曖昧なら、誰も動かない。
「できない人が悪い」のではなく、“できる環境が整っていない”のです。
③ 仕組みよりも“根性論”に頼っている
5Sが続かない現場では、「やる気がない」「意識が低い」といった言葉がよく聞かれます。
しかし、人は誰でも「やりたい気持ち」がゼロなわけではありません。問題は、やりたくても続けられない環境にあります。
根性論で動く仕組みは一時的にしか続きません。
一方で、仕組みで支える躾は、誰がいても継続します。
つまり、強い現場とは「人に頼らず続く仕組み」がある現場です。
人を叱るより「従いたくなる仕組み」を作る
5Sの現場では、「守らない人をどう指導するか?」という相談をよく受けます。
しかし本来の躾とは、“指導で人を動かす”ことではなく、仕組みで人が自然に動くようにすることです。
わかりやすい例が「駐車場の白線」です。
白線がない駐車場では、車がバラバラに停まります。
しかし、白線を引くだけで多くの人が整然と停めます。
誰かに「まっすぐ停めなさい」と言われなくても、秩序が保たれます。
これが仕組みの力です。
5Sでも同じです。
「守らせる仕組み」ではなく、「守らなくても秩序が生まれる仕組み」を作ることが重要です。
たとえば、
- 工具や備品の定位置を明確に表示する
- 写真でOK/NG状態を比較して貼り出す
- “良い状態”を掲示して模範を示す
これらの取り組みは、叱らずとも人を動かす仕掛けです。
重要なのは、「人に合わせて仕組みを作る」ことです。
人を変えようとするのではなく、行動しやすい環境を整える。
それが結果的に「叱らなくても続く現場」を生み出します。
躾は、ルールで人を縛ることではなく、
仕組みで人を動かすこと。
仕組みが整えば、ルールを守らせる必要はなくなります。
人が自ら動く現場は、叱らなくても成長していくのです。
躾が続く職場に共通する3つの特徴
5Sが継続できる現場と、途中で止まってしまう現場の違いは何でしょうか。
一言でいえば、それは「仕組みと文化の差」です。
躾が続く職場には、次の3つの特徴が共通して見られます。
① できている人を褒める文化がある
続く職場では、できない人を叱るより、できている人を見える化して称賛する仕組みがあります。
例えば、5S優良チームの写真を掲示したり、改善提案を全員で共有したりするなど、
“良い行動を広げる仕掛け”が自然に組み込まれています。
人は叱られて変わるのではなく、認められて伸びるものです。
褒められる仕組みがある現場ほど、ルールを「守るもの」ではなく「誇れるもの」として捉えるようになります。
② 仕組みが「人任せ」になっていない
躾が続く現場では、ルールや基準が“人に頼らず回る仕組み”になっています。
たとえば、工具の定位置がラベル化されていれば、誰がいても同じ状態を維持できます。
また、点検表や基準写真を活用することで、清潔や整頓の判断を個人の感覚に依存させません。
仕組みが強い現場では、異動や新人が入っても品質が下がらず、
「誰がやっても同じ結果になる」状態を維持できます。
つまり、人ではなく仕組みが清潔と躾を支えているのです。
③ 5Sを“教育”ではなく“経営”として捉えている
躾を単なる“指導”や“社員教育”の一部と考えているうちは、継続しません。
続く現場では、5Sを“現場改善”ではなく“経営の仕組み”として捉えています。
整理・整頓・清掃・清潔・躾の全てを、「利益を生む基盤」「人を育てる投資」として扱うのです。
そのため、リーダー層が現場の躾を「指導」ではなく「支援」として関わっています。
この意識が広がると、現場全体の雰囲気が変わり、
「続ける5S」から「誇りになる5S」へと進化します。
躾を実践に落とし込む仕組みアイデア
躾は精神論ではなく、仕組みで支える活動です。
「やる気」や「意識」に頼るのではなく、誰でも自然に行動できる環境を作ることが目的です。
ここでは、現場で実践できる3つの仕組みアイデアを紹介します。
整理を育てる仕掛け
整理を続けるためには、“捨てる判断”を仕組み化することが大切です。
不要品BOXを常設し、「迷ったら入れる」をルールにしておけば、
不要なものをため込むリスクを減らせます。
また、新しい部品や工具が増えた際には「整頓待ちBOX」を設置し、
勝手に置き場を作らないようにします。
こうすることで、現場全体が整理された状態を維持しやすくなります。
整頓を習慣化する仕掛け
整頓を人任せにせず、戻さざるを得ない環境を作りましょう。
工具の吊り下げ式収納や、写真付きの定位置表示は代表的な例です。
人の記憶に頼らず、目で見て判断できる状態にしておくことで、
誰でも同じように整頓ができます。
また、空きスペースを“自由に使える場所”にしてしまうと、すぐに乱れます。
あえて空きスペースを封印し、
「何を」「どのように置くか」を全員で決めるルールを作ると、
整頓の精度と意識が自然に高まります。
➡️ 3定(さんてい)とは?定位置・定品・定量で整頓を維持する方法
清掃を継続させる仕掛け
清掃は、点検活動の一部と位置づけるのがポイントです。
「いつ・誰が・どこを・何分で行うか」を明確にし、
チェックリストや写真で進捗を見える化します。
清掃を“見守る仕組み”に変えることで、
自然と整理・整頓の確認も一緒に行われるようになります。
清掃時間を固定(たとえば朝の10分間)し、全員で取り組むことで、
職場全体に「きれいに保つリズム」が生まれます。
➡️ 5Sの清掃とは?「掃除」との違いと現場での効果的な進め方を解説
このように、躾は“人を変える”活動ではなく、“環境を変える”活動です。
仕組みで支え、行動を自然に続けられるようにすることで、
人の成長と現場の安定が同時に実現します。
まとめ:躾は人を動かす仕組みであり、人を育てる文化
5Sの最終段階である「躾」は、ルールを守らせるための活動ではありません。
叱ることでも、監視することでもなく、人が自ら動きたくなる仕組みを作る活動です。
整理・整頓・清掃・清潔によって「整った状態」を作ったあと、
その状態を維持し、さらに改善へとつなげていくのが躾の役割です。
つまり、現場を成長させる力を内側から生み出す段階なのです。
躾とは、“ルールで人を縛ること”ではなく、“仕組みで人を動かすこと”。
仕組みで行動を支えると、人は叱られなくても動きます。
行動が続くことで、やがて「守ることが当たり前」という文化が生まれます。
そしてその文化こそが、会社の改善を自走させる最大の原動力です。
5Sの目的は、きれいな職場を作ることではなく、成長できる職場を作ること。
躾はその中心にあり、「人が育つ現場=改善が続く現場」を作り出します。
清掃で整え、清潔で保ち、躾で根づかせる。
この3つのサイクルが回り始めたとき、
5Sは単なる活動ではなく、企業文化として定着します。


