製造業の在庫削減は、棚を空にする活動ではありません。余剰在庫で資金と場所を使いながら、必要な部品は足りない状態を直し、納期を守れる在庫へ近づける管理です。
最初に減らす対象を決めずに一律削減すると、欠品、特急購入、段取り替え、納期遅れが増えます。材料、仕掛品、完成品を分け、なぜそこにあるのかを確認してから補充条件を変えます。
在庫削減で先に決めること
適正在庫は、少ない在庫ではなく、必要な時に必要な量を使える状態です。この節では、削減の目的と、減らしてはいけない在庫を先に決めます。
目的が欠品防止なのか、資金を空けたいのか、保管場所を取り戻したいのかで、見る品目も許容するリスクも変わります。一つの数字だけで評価しないことが出発点です。
材料・仕掛品・完成品を混ぜない
材料は調達遅れへの備え、仕掛品は工程間の待ち、完成品は需要変動への備えとして置かれます。置かれた理由が違うため、同じ「在庫」として合計だけを減らすと原因を取り違えます。
まずは三つに分け、品目ごとに数量、金額、最終入出庫日、滞留日数を並べます。仕掛品が増えている場合は、在庫の問題ではなく工程能力、検査待ち、段取り、品質異常を確認します。
欠品を出さない条件を合意する
削減対象は、代替が利く品目、使用量が安定する品目、長く動いていない品目から選ぶと判断しやすくなります。顧客納期や安全に直結する部品は、削減前に調達期間と代替可否を確認します。
営業、生産、購買で「欠品時に誰が納期を判断するか」「特急購入を誰が承認するか」も決めます。在庫を持つこと自体を悪とせず、守るべき納期と上限を同じ表で扱います。
削減前に見る四つの事実
在庫表の数量だけでは、使える在庫か、動かない在庫かは分かりません。現場で実際に使われる場所と記録を照合し、削減の優先順位を決めます。
数字が正確でない場合も、最初から全品目を整備する必要はありません。金額または保管面積の大きい上位品目を選び、二週間の入出庫実績を取るところから始めます。
動き・金額・滞留日数で優先品目を選ぶ
月別の使用量、在庫金額、最終使用日を並べると、毎日動く少数品目と、場所だけを使う長期滞留品が分かれます。ABC分析は重要品目を選ぶ手段であり、A品目を無条件に減らす指示ではありません。
A品目は欠品の影響が大きいため、発注点と調達期間を丁寧に見ます。C品目は整理候補になりやすい一方、保守部品や安全在庫なら用途を確認してから処分・削減を判断します。
帳簿と現物の差を一度つかむ
帳簿上は在庫があるのに現場で見つからないなら、発注点を変えても欠品は止まりません。定位置、品番表示、単位、払い出し記録を一つの品目群で照合します。
差異が出たら、責める前に「いつ、どこで、何単位ずれたか」を残します。受入、払い出し、返品、工程への移動のどこで記録が切れたかを特定し、担当者と記録方法を直します。
欠品を増やさず在庫を減らす5つの手順
在庫削減は、発注量を一気に下げるのではなく、対象を絞って補充条件を試す活動です。毎週の確認で欠品と納期への影響を見ながら、条件を少しずつ更新します。
- 材料・仕掛品・完成品を分けて現状を一覧化する
- 金額、使用頻度、滞留日数で対象品目を選ぶ
- 調達期間、最小発注量、代替可否を確認する
- 発注点、上限、確認者、例外時の判断者を決める
- 二週間試し、欠品、特急購入、滞留を比べて条件を直す
発注点は調達期間と使用量から決める
発注点は「残りがこの数量になったら補充を始める」という基準です。直近の使用量、仕入先の通常リードタイム、ばらつきの大きさを確認し、欠品経験だけで多めに決めないようにします。
例えば納入に二週間かかる部品なら、その二週間で使う量と例外時の余裕を分けて記録します。受注増、仕入先遅延、設計変更が起きた時に誰が上限を外すかまで決めると、基準が形骸化しません。
週一回の需給確認を10分で回す
対象品目だけを、生産予定、受注変化、入荷予定、現在庫、発注残の順に確認します。購買だけに任せず、生産計画の変更が在庫へ反映される短い場を持つことが重要です。
会議の記録には、品目、判断、担当、期限、次回確認日を残します。使わないデータを増やすより、例外を早く見つけて手配や顧客連絡を決められる表にします。
最初は全品目を対象にしません。欠品すると生産が止まる品目、金額が大きい品目、使われないまま残りやすい品目を各一つ選び、同じ表で二週間だけ追います。数字を集めることではなく、誰がいつ補充・保留・設計確認を決めるかを試すことが目的です。
この場で決められない例外は、部門間で先送りにせず、判断が必要な人へ上げます。営業の受注見込み、生産の優先順位、購買の納入可能日が食い違ったままでは、在庫表を整えても欠品は減りません。判断の理由を一行残すと、次回に安全在庫の条件を見直せます。
在庫を増やして問題を隠さない
在庫が増える背景には、需要変動だけでなく、工程の詰まり、品質の手直し、計画変更、情報の遅れがあります。補充量を増やす前に、増えた場所と理由を見分けます。
仕掛品が特定工程の前で増えるなら、在庫削減の担当だけでは解けません。工程の流れと待ち時間を確認し、原因に合わせて改善テーマを分けます。
仕掛品は工程の遅れとして見る
仕掛品が増えた時は、作り過ぎと決めつけず、どの工程の前後に何日止まったかを確認します。検査待ち、段取り待ち、設備停止、材料待ちを分けると、次に直すべき条件が見えます。
仕掛品と待ち時間からボトルネックを見つける方法を併読し、在庫を削る前に流れを止めている工程を確かめてください。
在庫回転率だけで良し悪しを決めない
在庫回転率が上がっても、欠品や特急運賃、納期遅れが増えれば改善とは言えません。対象品目ごとに、在庫金額、欠品件数、特急購入、納期影響を一緒に見ます。
QCDで現場改善を考える視点のように、コストだけでなく品質と納期の変化を確認して、条件を戻す判断も残します。
月末の金額だけを見ると、たまたま納入直前だった品目や、一時的な受注の偏りに引っ張られます。品目ごとの在庫日数と、実際に起きた欠品・特急対応を並べ、改善前後で同じ条件を比べます。下がった在庫金額だけを成果にしないことが大切です。
削減の途中で品質確認用の予備や、長い調達期間を持つ部品まで一律に減らすと、現場は不安になり元へ戻ります。守る在庫と見直す在庫を分け、試行期間中に納期・品質が悪化したら数量を戻す基準を先に共有してください。
よくある質問
在庫削減はどの品目から始めればよいですか?
金額、使用頻度、滞留日数を並べ、代替可否と調達期間を確認できる品目群から始めます。顧客納期や安全に直結する部品は、先に欠品時の判断条件を決めてください。
仕掛品を減らすと生産が止まりませんか?
止まる可能性があるため、工程別の待ち理由を確認せずに減らしません。二週間の試行で、仕掛品、欠品、納期、特急対応を比べ、工程能力や段取りの問題ならそちらの改善へ戻します。
システムを入れれば在庫は減りますか?
記録と共有をしやすくする手段にはなりますが、目的、品目の定義、発注点、例外判断が曖昧なままでは在庫は適正化しません。まず一品目群で運用条件を決め、必要な機能を選びます。



