アローダイアグラム(PERT図)は、作業の順番と必要な日数を矢印でつなぎ、全体がいつ終わるかを確かめる図です。出荷、設備保全、段取り替え、新製品の立ち上げなど、複数の準備が合流する仕事に使えます。まず一件の仕事を選び、担当者と「何が終われば次へ進めるか」を書き出しましょう。
仕事の完了が遅れる時は、担当者の作業速度よりも、前の作業や別担当の準備を待っていることがあります。アローダイアグラムにすると、並行できる作業、両方の完了を待つ合流点、全体の日程を左右する作業を分けて確認できます。この記事では考え方と作り方を先に示し、計算部分だけは日常的な出荷業務を共通例として説明します。最後に、設備保全や段取り替えなど別の業務へ置き換える方法も整理します。
アローダイアグラム(PERT図)とは
アローダイアグラム(PERT図)は、作業の順番と所要日数を図にし、全体がいつ終わるかを検討するための図です。本記事では、作業を矢印で表す形式を扱います。作業の一覧だけでは見えにくい「何が終わるまで次へ進めないか」と「同時に進められる準備」を確認できます。まず矢印と丸の意味、使う場面を押さえてから、作り方と日数の計算へ進みましょう。
矢印は作業、丸は作業をつなぐ時点を表す
基本の表し方は、矢印に作業名と所要日数を書き、丸で開始・終了の時点を結ぶ形です。丸は「結合点」と呼び、人や部署を表す記号ではありません。合流点から次へ進めるのは、そこへ入る先行作業がすべて終わった時です。
| 図の要素 | 意味 | 記入するときの注意 |
|---|---|---|
| 実線の矢印 | 日数を要する作業 | 作業名と所要日数を書く |
| 丸・結合点 | 作業の開始や終了をつなぐ時点 | 同じ時点は同じ番号で表す |
| 破線の矢印・ダミー | 所要日数0の依存関係 | 実作業や待ち時間の代わりにしない |
アローダイアグラム法は新QC七つ道具の一つです。
合流と待ちがある業務の予定確認に使う
複数の作業を待ってから次へ進む仕事なら、日常業務にも改善活動にも使えます。たとえば設備保全では交換部品と停止許可、段取り替えでは治具と作業者、新製品の立ち上げでは図面・工程・検査基準がそろう時点を確認できます。ただし、図だけで問題の原因や改善策が決まるわけではないので、何を改善するかが不明なら先に現状を調べます。
| 確認したいこと | 使い分けの考え方 |
|---|---|
| 現在の業務の流れや受け渡しを整理したい | 業務フロー図で現状を描く |
| 実行作業の依存関係と完了までの日数を確かめたい | アローダイアグラムで日程を計算する |
| 日付ごとの予定と実績を共有したい | 計算後の作業をガントチャートなどの工程表へ展開する |
現状把握から始める場合は、IE手法による現場改善の分析方法も参考になります。本記事では、業務の種類を問わず使える作業順序と日数の整理方法に絞ります。
作り方の前半:作業・先行関係・日数をそろえる
図を描く前に、担当者間で作業の区切りを合わせます。「準備完了」の意味が違うと、矢印が正しくても実行段階で止まります。最初は五〜八作業程度に分け、着手条件と完了条件を一緒に書くと確認しやすくなります。
手順1・2:完了条件を決めて作業を洗い出す
仕事の終点は、関係者が同じ意味で使えるように決めます。「準備が終わった時」「現場で使える時」「記録まで終えた時」のどこを完了とするかで日程は変わります。図を書く前に、管理者と各担当で、どこまでを今回の仕事に含めるかを合わせましょう。
以下は、注文内容の確認から運送会社への引き渡しまで、複数日にまたがる一件の出荷を想定した例です。日数は計算を説明するための仮定で、GFCの支援実績や標準日数ではありません。製品の準備・検査と梱包箱の準備は別の担当が進め、検査済みの製品と必要な箱が両方そろってから梱包するものとします。
| 作業 | 内容・担当の例 | 直前に終える作業 | 日数の仮定 | 完了条件 |
|---|---|---|---|---|
| A | 受注担当が品番・数量・出荷先を確認 | なし | 2日 | 出荷する内容が確定する |
| B | 製造・検査担当が製品をそろえて検査 | A | 3日 | 必要数量がそろい、検査に合格する |
| C | 出荷担当が箱・緩衝材をそろえる | A | 1日 | 指定の梱包資材が必要数そろう |
| D | 出荷担当が箱を組み立てる | C | 1日 | 必要数の箱が組み上がる |
| E | 梱包担当が製品を箱詰めし、表示を確認 | B・D | 2日 | 品番・数量・表示を確認し、梱包が完了する |
| F | 出荷担当が運送会社へ引き渡す | E | 2日 | 引き渡しと出荷記録が完了する |
この例の終点は「運送会社への引き渡しと出荷記録が終わった時」で、お客様への到着は含めません。Fの2日には集荷待ちを含め、集荷条件を確認した上で見積もる想定です。製品の追加製造や再検査が必要になれば、その作業と日数を加えて計画を組み直します。
手順3・4:前提を確かめ、矢線に日数を入れる
各作業に対し、「前の作業が終わらなくても本当に始められるか」を担当者に確認します。担当が違うことだけを根拠に、並行作業にしてはいけません。日数は実際に手を動かす時間だけでなく、承認待ちや手配待ちを含む着手から完了までの期間として見積もります。
例では、注文内容が決まるAの後に、製品の準備・検査Bと梱包資材の準備Cを並行させます。箱を組み立てるDは資材がそろった後、箱詰めするEは検査済みの製品と箱が両方そろった後です。この例は注文内容から箱の仕様を決められる前提で、現物を測ってから箱を選ぶ必要があるなら、Bの後にCをつなぎ直します。
図1では、②から分かれた二つの経路を④で合流させています。丸の番号は本文の①・②・③・④・⑤・⑥と対応する結合点で、A〜Fは矢印上の作業です。
例題の仮定日数。丸は結合点、矢印は作業です。幅が狭い画面では図を横にスクロールできます。
2日
3日
1日
1日
2日
2日
BとCは②から並行して進めます。箱詰めEを始める④では、製品の準備・検査Bと箱の組立てDの両方が完了している必要があります。
手書きするときは②から上下に分け、④で合流させると見やすくなります。この例ではダミーは不要です。一組の同じ開始・終了結合点で別々の作業を区別する必要がある場合や、一部の先行関係だけを表したい場合は、結合点と所要日数0のダミーを追加します。
| 日数とともに残す項目 | 現場で確認する内容 |
|---|---|
| 見積りの根拠 | 過去の作業記録、担当者の見積り、手配先の回答など |
| 稼働条件 | 暦日か稼働日か、休日、使える時間帯 |
| 待ち時間 | 手配・承認・検査の待ちをどこへ含めたか |
| 未確定事項 | 回答待ちの内容、確認担当、回答期限 |
| 資源の条件 | 同じ人・設備・治具を同時に使わないか |
上表の例題の日数はすべて仮定です。自社の計画では各作業の日数欄に根拠と確認日を添え、回答のない手配日数を確定値にしないでください。
作り方の後半:最早・最遅時点と余裕を計算する
まず始点から前へ進み、最も早く終えられる時点を計算します。次に終点から戻り、全体を遅らせない限界の時点を計算します。ここでは同じ稼働日カレンダーを使い、開始直前を0、2日間が経過した時点を2と表します。
手順5:前から足し、合流点では大きい値を選ぶ
最早結合点時刻は、その点から後続作業を始められる最も早い時点です。前の結合点の時刻に、その矢印の作業日数を足して求めます。複数の矢印が入る点では、すべての先行作業を待つため最大値を選びます。
- ①は0、②は0+2=2。
- ③は2+1=3。
- ④へBを通って来る時刻は2+3=5、C・Dを通って来る時刻は3+1=4。大きい5を採用する。
- ⑤は5+2=7、⑥は7+2=9。
図2は、上の計算を作業の矢印に重ねたものです。④へはBの経路が5、C・Dの経路が4で到達するため、梱包を始められるのは遅い方の5です。
例題の仮定日数。丸は結合点、矢印は作業です。幅が狭い画面では図を横にスクロールできます。
2日
3日
1日
1日
2日
2日
④にはB側が時刻5、C・D側が時刻4で到着します。早い側だけではEへ進めないため、④の最早時刻は5です。そこからEとFを足すと、終点⑥は9になります。
したがって、前提どおり並行実行できる場合の全体所要日数は9稼働日です。「第9日から始める」という意味ではなく、開始から9稼働日が経過すると完了する計算です。実際の完了日は、開始日、休日、作業可能な時間帯を工程表へ当てはめて決めます。
手順6・7:後ろから引き、作業ごとの全余裕を求める
最遅結合点時刻は、全体の完了を遅らせないために、その点へ到達しておく必要がある限界の時点です。今回は終点⑥を最早時刻と同じ9に置き、後ろから作業日数を引きます。行き先が複数ある点では、どの後続作業にも間に合うよう最小値を選びます。
⑤は9−2=7、④は7−2=5、③は5−1=4です。②はB側の5−3=2とC側の4−1=3を比べ、小さい2を採用します。①は2−2=0となります。
| 結合点 | 最早時刻 | 最遅時刻 | 結合点の余裕 |
|---|---|---|---|
| ① | 0 | 0 | 0 |
| ② | 2 | 2 | 0 |
| ③ | 3 | 4 | 1 |
| ④ | 5 | 5 | 0 |
| ⑤ | 7 | 7 | 0 |
| ⑥ | 9 | 9 | 0 |
作業の全余裕は「終点の最遅時刻 − 始点の最早時刻 − 作業日数」で求めます。これは、ほかの条件を変えずに、その作業をどれだけ遅らせても全体完了へ影響しないかを表します。結合点の余裕と、矢印上の作業の全余裕は区別してください。
| 作業 | 最早開始 | 最早終了 | 最遅開始 | 最遅終了 | 全余裕 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 0 | 2 | 0 | 2 | 0 |
| B | 2 | 5 | 2 | 5 | 0 |
| C | 2 | 3 | 3 | 4 | 1 |
| D | 3 | 4 | 4 | 5 | 1 |
| E | 5 | 7 | 5 | 7 | 0 |
| F | 7 | 9 | 7 | 9 | 0 |
CとDの全余裕はそれぞれ1日ですが、同じ経路で共有する余裕です。Cで1日使えばDに残る余裕はなくなり、「CもDも1日ずつ遅れてよい」とは言えません。なお、全体完了への影響を見る全余裕に対して、後続作業の最早開始を遅らせない余裕を自由余裕と呼びます。
クリティカルパスを進捗確認と日程の判断に使う
この例のクリティカルパスはA→B→E→Fで、合計9日です。開始から終了までの経路のうち、所要日数の合計が最も長く、全体をこれ以上早く完了できない理由になる経路です。図で太線にするだけで終わらせず、その作業を支える準備と判断を進捗確認の中心に置きます。
例題の仮定日数。丸は結合点、矢印は作業です。幅が狭い画面では図を横にスクロールできます。
2日
3日
1日
1日
2日
2日
「早」は最早時刻、「遅」は最遅時刻です。赤い太線が全余裕0のA・B・E・Fを示します。CとDの全余裕は各1日ですが、二つの作業が共有する余裕なので、両方で1日ずつは使えません。
図3で強調したA・B・E・Fは全余裕が0の作業です。C・Dの経路には合計1日の余裕がありますが、どちらかが使えば残りは減るため、別々の担当でも同じ余裕として管理します。
手順8:遅れの報告を、着手条件の確認へ変える
管理者が確認したいのは完了予定への影響ですが、現場に聞くべきことは「あと何日か」と「何がそろえば進められるか」です。担当者を責める聞き方になると、未確定の条件が表に出にくくなります。朝礼や進捗確認では、残作業と待ちの理由を分け、管理者が引き取る調整を決めます。
出荷例では、箱ができていても製品の検査が終わらなければ梱包へ進めません。同じ見方で、設備保全なら「部品が届いても停止許可がなければ修理できない」、新製品の立ち上げなら「治具ができても検査基準が決まらなければ試作判定できない」と整理できます。管理者は、全体日程を左右する作業の残量と着手条件を確認し、人員・設備・判断者の調整を引き取ります。
| 重点確認の対象 | 確認する事実 | 判断と最初の対応 |
|---|---|---|
| B:製品準備・検査 | 検査待ちの数量、残作業、完了見込み | 遅れが見込まれた時点でE以降を再計算し、工場長が人員・設備の調整を引き取る |
| C・D:資材準備と箱の組立て | 足りない資材、残りの箱数、共通の余裕を使った量 | 合計1日の余裕を超えそうなら、梱包開始と出荷日への影響を確認する |
| E:箱詰め・表示確認 | 品番・数量・出荷先表示の一致、残りの梱包数 | 確認を省いて出荷に進めず、不一致の確認担当と完了見込みを決める |
| F:運送会社への引き渡し | 集荷予定、引き渡し状況、出荷記録 | 集荷待ちを残作業として示し、引き渡し記録まで確認する |
別の業務へ置き換える時は、分岐・合流・終点を探す
出荷例の作業名をそのまま使う必要はありません。自社の業務で、同時に始められる準備、複数の完了を待つ作業、完了とみなす終点を探せば置き換えられます。次の表は、業務ごとに最初に確認する関係を示したものです。
| 業務 | 並行しやすい準備 | 合流後の作業 | 終点の例 |
|---|---|---|---|
| 設備保全 | 交換部品の手配/停止許可と安全準備 | 交換・調整 | 試運転と安全確認の完了 |
| 段取り替え | 治具・工具の準備/材料・条件表の確認 | 交換・初品加工 | 初品の品質確認完了 |
| 新製品の立ち上げ | 治具製作/工程設計/検査基準の作成 | 試作・評価 | 量産移行の判断完了 |
| 人材育成 | 教材準備/指導者の日程確保 | 実技訓練 | 技能確認と次の担当決定 |
図4では、上表の準備を左側、すべての完了を待つ作業を中央、今回の終点を右側に並べました。自社の業務へ置き換える時も、作業名を写すより、何がそろえば次へ進めるかを担当者と確かめます。
日数を入れる前の依存関係の整理図です。PERT図の結合点・作業日数はまだ設定していません。幅が狭い画面では図を横にスクロールできます。
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→
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設備保全では部品と停止許可と安全準備、段取り替えでは治具・工具と材料・条件表をそろえてから次へ進みます。新製品では治具・工程・検査基準、人材育成では教材と指導者の日程が合流前の確認対象です。各行の終点まで含めて、今回の仕事の範囲を合わせます。
この整理を作業日数の計算につなげるには、準備ごとの着手条件と完了条件を確認し、作業を矢印、開始・終了の時点を丸に置き換えます。日数とその根拠を入れた後に、図2・図3と同じ順序で最早・最遅時点と余裕を計算します。
実績が変わったら、完了した作業は実績で固定し、未完了作業の残日数と依存関係を更新します。その時点から最早・最遅時点を計算し直すことで、クリティカルパスが別の経路へ移ったことも把握できます。
日程短縮の前に、共用資源と省けない確認を確かめる
全体日数を短くしたい時は、クリティカルパス上の作業を中心に、短縮可能な部分と条件を調べます。余裕のあるCだけを早めても、この例の9日は変わりません。逆にBを1日短縮すると両経路が8日でそろうため、その後はBだけを短縮しても全体は早まりません。
「並行の矢印が描ける」ことと「同時に実行できる」ことも別です。BとCを同じ担当者が専任で行うなら、担当の時間配分を決める必要があります。共有設備や治具の予約、生産の繁忙時間も確認し、重なる作業をずらした上で完了日を再計算します。
やってはいけないのは、納期に合わせて根拠なく日数を削ること、安全・品質の確認を省くこと、待ち時間を0日のダミーへ置き換えることです。順番を変更するなら、後続作業の着手条件を本当に満たせるかを関係者で確かめます。計算結果は条件付きの計画であり、納期や改善効果の保証ではありません。
明日から試すなら、次に予定している業務を一件選び、管理者と担当者で作業・着手条件・完了条件を書き出してください。次に、日数の根拠と未確定事項を埋め、図と重点進捗確認表を一組にします。現状分析も含めて進め方を整理したい場合は、IE手法の解説と現場改善の案内をご覧ください。相談に向けては、対象業務、確認担当、未確定事項を整理しておくと、検討すべき範囲が明確になります。
よくある質問
ここでは、作り始める時と運用中に迷いやすい点を確認します。計算の前提が変われば、必要な日数や重点確認の対象も変わります。自社の条件を担当者と確認しながら使ってください。
ダミーは並行作業があると必ず必要ですか?
必ず必要なわけではありません。ダミーは、実作業を追加せずに依存関係を正しく表すための所要日数0の矢印です。この例のようにBとC・Dを別経路として描き、④で正しく合流できれば不要です。
クリティカルパスは一つとは限りませんか?
同じ最長日数の経路が複数あれば、クリティカルパスも複数になります。この例でBを3日から2日に短縮すると、A→B→E→FとA→C→D→E→Fがともに8日になります。一方だけをさらに短縮しても全体は早まらないため、両方を確認します。
日数の根拠がまだ分からない作業はどう扱いますか?
未確定と明記し、確認担当と回答期限を置きます。仮の日数で計算する場合は仮定と分かる形にして、確定した完了日として約束しないでください。見積りや手配回答を得たら、その作業だけでなく全体の経路と余裕を再計算します。



