「給料を上げても社員のやる気が続かない」「待遇を改善しても離職が減らない」――
多くの製造業の現場で、このような悩みが繰り返されています。
しかし、それは社員の意識や世代の問題ではなく、“職場環境とやる気の関係”を正しく理解できていないことが原因です。
心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した「動機付け・衛生理論(二要因理論)」は、
人が“働く意欲を感じる要因”と“不満を生む要因”がまったく別物であることを示した理論です。
本記事では、このハーズバーグ理論をもとに、
「給料では人が動かない理由」と「現場リーダーがやる気を引き出す仕組み」について、
製造業の実情に即して解説します。
・マズローの欲求5段階説から考える社員のモチベーションアップ
ハーズバーグの動機付け・衛生理論とは
心理学者フレデリック・ハーズバーグは、人が仕事に対して感じる「満足」と「不満」は同じ軸上にあるものではないと指摘しました。つまり、「不満がない」状態は必ずしも「やる気がある」状態ではないということです。この考え方を体系化したものが「動機付け・衛生理論(二要因理論)」です。
ざっくりと、頑張りたい理由と、辞めたくなる理由は別々であるという事です。
辞めたくなる理由を改善したとしても、頑張りたい理由にはなりません。
頑張りたい理由がしっかりあったとしても、辞めたくなる理由はなくなりません。
この点を捉えておくと、この理論が理解しやすくなると考えます。
二要因理論の基本構造
ハーズバーグは、仕事に関する要因を大きく二つに分類しました。一つは「衛生要因」、もう一つは「動機付け要因」です。
衛生要因とは、整っていないと不満が生まれるもの。動機付け要因とは、あることで意欲や満足感が高まるものです。
衛生要因の例としては、給与・人間関係・労働条件・会社の方針などが挙げられます。これらは整っていれば不満が減りますが、どれだけ良くしてもやる気の向上には直結しません。
一方、動機付け要因は、達成感・成長・責任・承認・仕事の意義など、内面的な満足に関わるものです。これらが満たされることで、人は自発的に行動し、成果を出そうとする意欲が高まります。
動機付け要因と衛生要因の違い
衛生要因が整っていない職場では、不平や不満が生まれ、離職やモラル低下につながります。
しかし、衛生要因を整えるだけでは、モチベーションの上昇は一時的です。
たとえば、給与を上げても数ヶ月後には慣れが生じ、再び不満が出てきます。
一方、動機付け要因は、仕事そのものに「意味」や「成長感」があるときに発揮されます。
たとえば、改善提案が採用された、後輩を育てて感謝された、新しい技術を身につけた、などの経験です。
これらは本人の内側にある達成感を刺激し、持続的なやる気を生み出します。
つまり、衛生要因は「やる気の土台を整えるもの」、動機付け要因は「やる気を生み出すもの」と言えます。
どちらか一方だけでは、社員のモチベーションは安定しません。現場リーダーが意識すべきは、この二つの要因を区別し、両輪で整えることです。
ChatGPT:
承知しました。
では続けて、第2ブロック「給料ではやる気が上がらない理由」を同じテキスト形式で作成します。
経営者・リーダーが「なぜ待遇改善だけでは人が動かないのか」を心理学的かつ現場的に理解できる内容にしています。
給料ではやる気が上がらない理由
ハーズバーグ理論の最も有名な示唆が、「給料を上げても人は動かない」というものです。
もちろん、給与や待遇が悪ければ不満は高まり、離職にもつながります。
しかし、それを改善したからといって、社員が主体的に動き出すわけではありません。
その理由を理解するには、「不満の解消」と「やる気の向上」は別のメカニズムであることを知る必要があります。
「不満がない=やる気がある」ではない
多くの企業が、社員の不満をなくすことに注力します。
たとえば、給与を上げる、設備を新しくする、福利厚生を整えるなどです。
これらは確かに重要ですが、それらを改善しても一時的な安心感しか得られません。
不満が消えるだけで、やる気が生まれるわけではないのです。
現場でよく見られるのは、制度や環境を整えたのに「思ったほど意欲が上がらない」というケースです。
それは、改善が“衛生要因”の範囲にとどまっているためです。
衛生要因をどれだけ高めても、「もっと良い条件があるのでは」という比較意識が生まれ、満足は長続きしません。
社員が「自分の仕事に価値を感じる」「自分が会社に貢献している」と実感できなければ、真のモチベーションは高まりません。
つまり、衛生要因は不満を防ぐための条件であり、やる気を引き出すには別のアプローチが必要なのです。
衛生要因をいくら改善しても限界がある
給与や待遇を改善することは、経営上の重要な投資ですが、それがモチベーションの中心ではありません。
人は、仕事そのものに意味や達成感を感じることで長期的なやる気を保ちます。
もし動機付け要因が欠けたまま給与だけを上げても、「やって当然」と受け止められ、やる気の燃料にはなりません。
たとえば、製造現場で「ミスが減ったら手当を出す」という制度を作っても、それが一度の報酬で終われば、やる気は持続しません。
一方で、「ミスを減らす仕組みを自分で考えた」「チームで改善案を実現できた」という体験は、本人の成長意欲を刺激し、持続的な動機となります。
経営者やリーダーに求められるのは、「不満を減らす管理」から「やる気を引き出す支援」への転換です。
給与や待遇を整えるだけではなく、社員が仕事に誇りを持てる仕組みをどう作るかが鍵になります。
製造現場での適用ポイント
ハーズバーグの動機付け・衛生理論を現場で活かすには、まず「衛生要因」と「動機付け要因」を切り分けて考えることが必要です。どちらも重要ですが、目的が異なります。衛生要因は職場の“土台”を整えることで不満を減らし、動機付け要因は仕事の“意義”を見いだすことで意欲を高めます。製造現場では、この二つのバランスが崩れやすい点に注意が必要です。
衛生要因を整えるための環境づくり
衛生要因とは、働く上で「不満を感じないための条件」です。現場では、次のような取り組みがこれに該当します。
・安全対策の徹底(機械・作業環境・ルール)
・設備のメンテナンスや改善依頼の迅速化
・労働時間や休憩制度の適正化
・上司・同僚との人間関係の改善
・経営方針や方針共有の透明化
これらが欠けると、社員は安心して働けず、仕事に集中できません。衛生要因を整えることはモチベーション向上の前提条件です。
ただし、これらを整えるだけでは「不満がない状態」になるだけで、意欲が高まるわけではありません。衛生要因の整備は、あくまでスタートラインに過ぎません。
動機付け要因を生み出す仕組み設計
動機付け要因とは、仕事そのものからやる気を引き出す要素です。製造現場では、次のような仕組みを意識することが効果的です。
・改善活動に社員を主体的に参加させる
・スキルアップや資格取得を支援する制度をつくる
・チーム単位で成果を共有し、達成感を感じられる仕組みを整える
・業務の中で「任せる仕事」を増やし、責任を持たせる
・現場リーダーが小さな成功をその場で承認する
このような取り組みは、社員に「自分の仕事が認められている」「自分の成長が会社の成果につながっている」と感じさせます。
動機付け要因を高めるとは、単に報酬を与えることではなく、仕事を通じて内面的な満足を得られる環境をつくることです。
衛生要因と動機付け要因を組み合わせると、職場の安定感と前向きなエネルギーが共存するようになります。これにより、社員が「守り」から「挑戦」へと意識を切り替えやすくなります。経営者やリーダーは、どちらか一方に偏らないマネジメントを心がけることが重要です。
経営者・リーダーが実践すべき行動
ハーズバーグ理論を実践に移す際のポイントは、「不満をなくす」マネジメントから「意欲を引き出す」マネジメントへと転換することです。
現場では、どうしてもクレーム対応や問題解決といった“マイナスをゼロに戻す”活動に意識が向きがちです。しかし、社員のモチベーションを高めるには、ゼロからプラスへ引き上げる取り組みが欠かせません。
マネジメントで意識すべき2つのアプローチ
経営者やリーダーが取り入れるべきは、「衛生要因を整える仕組み」と「動機付け要因を育てる関わり方」の両立です。
・衛生要因を整える仕組み
→ ルール・制度・環境を明確にし、不公平感をなくす。
→ 問題発生時の対応スピードを高め、「改善される職場」という信頼を築く。
→ 安全・安心・安定という“働く基盤”を守ることが最優先。
・動機付け要因を育てる関わり方
→ 社員の成長を促す仕事の任せ方を考える。
→ 「できた」「任された」「役に立った」と感じる機会を増やす。
→ 小さな成果をその都度認め、言葉で伝える。
衛生要因は経営の仕組みづくりで整い、動機付け要因はリーダーの関わり方で育ちます。この両輪を意識することが、組織全体のモチベーションを安定的に高める基本となります。
「満足を増やす」より「意欲を引き出す」指導へ
社員のモチベーションを考える際に、多くの経営者が陥りやすいのが「満足度を上げることが目的化する」ケースです。
しかし、満足度の向上はあくまで結果であり、目的ではありません。リーダーが目指すべきは、社員一人ひとりが「自分の力で成果を出したい」と思える状態をつくることです。
そのためには、結果ではなく“過程”を認める姿勢が大切です。たとえば、「工夫して段取りを変えたね」「ミスを分析して対策を立てたね」といった声かけは、社員に自信と主体性を与えます。こうした関わり方が動機付け要因を刺激し、現場に前向きなエネルギーを生み出します。
ハーズバーグ理論の本質は、評価制度や報酬制度をどう設計するかではなく、リーダーが「何を見て、何を認めるか」にあります。経営者や管理者が日々のコミュニケーションで社員の成長に焦点を当てることが、最も強力なモチベーション施策です。
まとめ
ハーズバーグの動機付け・衛生理論は、「やる気を上げる要因」と「不満をなくす要因」を分けて考えることの重要性を教えています。給与や待遇を改善することは確かに大切ですが、それは不満を防ぐための“衛生要因”に過ぎません。社員の意欲を引き出すには、達成感や成長、承認といった“動機付け要因”を育てることが欠かせません。
製造現場では、衛生要因を整えることに追われ、動機付け要因への働きかけが後回しになることが少なくありません。リーダーが「任せる」「認める」「育てる」といった関わり方を意識することで、社員の内発的なモチベーションが生まれ、組織のエネルギーが変わります。
マズローの理論が「人の欲求段階」を示したのに対し、ハーズバーグ理論は「職場の構造」を整理しました。
そして次に続く「自己決定理論」は、人が自らの意思で動くための心理メカニズムを解き明かします。
次回は、この自己決定理論をもとに、社員が“やらされ感”から“自発的行動”へ変わるための条件を解説します。


