中小製造業の現場では「特定の人しか作業ができない」「担当者が休むと工程が止まる」といった 属人化 の問題が日常的に発生しています。短期的にはベテランの経験に頼ることで何とか回りますが、長期的には品質のばらつきや納期遅れ、さらには経営リスクにつながります。
私自身、現場出身のコンサルとして数多くの工場を支援する中で、「属人化を放置すると改善が進まない」ことを何度も目の当たりにしてきました。逆に、標準化や教育を通じて属人化を解消した現場では、チーム全体のスキルが底上げされ、改善活動が自走するようになります。
本記事では、属人化の定義とリスク、そして現場で実践できる具体的な解決策を解説します。経営層にも現場リーダーにも、必ず役立つ内容です。
属人化の基本理解
属人化の定義
属人化とは、業務の進め方やノウハウが特定の人に依存し、その人が不在になると仕事が滞る状態を指します。
製造現場では、段取り替えの勘どころや加工条件の微調整、検査の合否判断などが属人化しやすい典型例です。
そもそもその人しかできない業務があるという企業も多く存在しています。
属人化が起こる背景
属人化は単に教育不足から生じるのではなく、現場文化や仕組みの影響が大きいです。
- 「習うより慣れろ」という経験依存の教育スタイル
- ベテランの暗黙知に頼る現場体質
- 作業標準が形式化されていない組織文化
こうした背景により、業務が人に紐づいてしまい、結果として組織全体の柔軟性が失われていきます。
属人化の真因を探るには、個人の経験だけに頼らず、体系的に原因を整理することが大切です。代表的な方法として 特性要因図(フィッシュボーンチャート)の活用法 が役立ちます。
属人化がもたらすリスク
属人化は一見すると「熟練者が頼りになる状態」として現場に安心感を与えることがあります。
しかし、その実態は会社全体に大きなリスクを内包しています。
品質、納期、生産性、さらには経営の持続性にまで影響を及ぼすため、見過ごすことはできません。
属人化が進むと、現場の改善活動自体が停滞しやすくなります。仕組みで改善を回すには、PDCAサイクルの基本と現場改善への活かし方 を押さえておくことが重要です。
品質リスク
特定の作業者しか分からない方法に依存すると、他の人が対応した際に品質が安定せず、不良や手戻りが発生します。
特に検査基準や加工条件が個人任せになると、顧客クレームにつながるリスクが高まります。
生産性リスク
作業者が休暇や退職で不在になった場合、代わりに誰も対応できず、生産計画が大きく乱れます。
結果として納期遅延や残業の増加が発生し、全体の生産性が低下します。
経営リスク
経営層から見ると、属人化は「見えないリスク資産」です。特定の人材が辞めれば技術ごと失われ、事業継続性に影響します。
また、属人化した業務は教育に苦労することが多く、せっかく採用した人材が、教育への不満で退社してしまうといった事も起きています。
属人化によってPDCAが形骸化する現場は少なくありません。具体的な落とし穴については、なぜPDCAは回らないのか?現場で陥りやすい落とし穴と解決策 で詳しく解説しています。
属人化を防ぐための基本アプローチ
属人化を解消するには、個人の経験や勘を「チームで再現できる仕組み」に変えることが重要です。
単なるマニュアル化にとどまらず、教育・改善・仕組みづくりをバランス良く進めることで、現場は安定的に成果を出せるようになります。
属人化を防ぐためには「見える化」が欠かせません。QC七つ道具を活用することで、誰が見ても同じ判断ができる仕組みがつくれます。詳しくは QC七つ道具をどう使う?製造現場で役立つ実践事例 をご覧ください。
標準化の推進
作業手順や判断基準を文章・図・動画などで形式知化し、誰でも同じように再現できる状態をつくります。
例えば、加工条件の記録や不良発生時の対応フローを明文化すれば、属人性を減らせます。
教育・OJTの強化
標準化されたルールを現場に浸透させるには、教育とOJTが不可欠です。
新人や若手に「なぜこの手順なのか」を理解させ、現場で繰り返し実践させることで、属人化を防止する文化が根付きます。
改善活動との連動
属人化を解消する取り組みは、QC活動やPDCAと結びつけることで継続性が生まれます。
例えば「不良原因が属人化にあった」という気づきを改善テーマとして設定すれば、自然に仕組み化のサイクルが回り始めます。
製造現場でよくある属人化の事例
属人化はどの工場にも少なからず存在します。
特に加工や検査のように経験値がものをいう領域で起こりやすく、「気づけばその人しかできない仕事」が増えていきます。
ここでは、現場で実際によく見られる属人化のパターンを紹介します。
段取り替えの属人化
新しい製品や型をセットする段取り替えは、経験豊富なベテランに頼りがちです。
「勘とコツ」に依存した調整が多く、若手が再現できないまま属人化します。
検査基準の属人化
外観検査や仕上げ確認など、判断が人に依存する作業では「誰が検査するか」で合否が変わることがあります。
明確な基準が文書化されていないと、品質ばらつきが発生します。
設備トラブル対応の属人化
機械の調整や不具合対応も属人化しやすい領域です。
ベテランだけが「音や振動で異常を見抜ける」といったケースが典型で、教育や共有が遅れると技術伝承が進みません。
属人化を解消するには、チームリーダーが改善を引っ張れる環境づくりも重要です。リーダー向けの実践法については 現場リーダー必見!PDCAを活かしたチームマネジメントの実践法 を参考にしてください。
属人化を解消した現場の改善事例
属人化は「仕方ない」と放置されがちですが、着実に解消した事例も数多くあります。
現場の工夫と経営層の後押しによって、業務がチームで回る仕組みに変わるのです。ここでは実際の改善事例を紹介します。
段取り時間の短縮と共有化
ある工場では、ベテラン作業者の段取り手順を動画で記録し、ポイントをチェックリスト化しました。その結果、若手でも短時間で段取り替えができるようになり、属人化が解消されただけでなく、段取り時間も20%短縮されました。
検査基準の標準化と教育
別の現場では、外観検査で合否が人によって変わる問題がありました。
改善として、不良品サンプルと合格サンプルを写真で一覧化し、基準を共有。さらに新人教育に組み込むことで、検査品質が安定し、クレーム件数が減少しました。
設備保全のマニュアル化
設備トラブル対応についても、対応履歴を整理し、過去トラ資料と合わせて故障診断フローを作成しました。
これにより、特定の人だけができた修理が誰でも対応可能になり、機械停止時間が短縮されました。
まとめ
属人化は製造現場にとって避けて通れない課題ですが、そのまま放置すれば品質・納期・コスト・経営などに悪影響を及ぼします。
しかし、作業の見える化・標準化・教育の仕組み化を進めれば、確実に解消へと近づけます。
支援先の現場でも、段取りや検査、設備対応といった属人化を解消することで、生産性や品質の安定が実現できました。
経営層にとっても「人に依存しない仕組みづくり」は事業継続の安心材料となり、将来的な成長への土台になります。
属人化を「当たり前」とせず、仕組みで解消する視点を持つことが、次の一歩につながります。