なぜなぜ分析は、
製造現場で最もよく使われている原因分析手法の一つです。
一方で、
「なぜを5回書いて終わり」
「毎回同じ結論になる」
といったように、やりっぱなしになっている現場も少なくありません。
こうした状態は、
なぜなぜ分析という手法そのものが悪いのではなく、
使う前提や考え方が整理されていないことから生まれます。
問題が曖昧なまま始めたり、
原因と対策が混ざったまま進めたりすると、
なぜなぜ分析は本来の力を発揮できません。
本記事では、
なぜなぜ分析を「やり方」としてではなく、
問題を深く理解するための思考の道具として使うために、
事前に押さえておくべき考え方を整理します。
原因分析の記事で整理した
「前提」「順番」を踏まえながら、
なぜなぜ分析が改善につながる条件を明確にしていきます。
なぜなぜ分析が形骸化しやすい理由
なぜなぜ分析は、
現場で広く使われている一方で、
形骸化しやすい分析手法でもあります。
これは、
なぜなぜ分析が悪いからではありません。
使われ方に特徴的な落とし穴があるためです。
「なぜを5回書くこと」が目的になっている
なぜなぜ分析が形骸化する最も典型的な理由は、
「なぜを5回書くこと」自体が目的になってしまうことです。
- フォーマットを埋める
- 回数をこなす
- 形を整える
こうした作業が中心になると、
「なぜを考える」ことよりも
「なぜを書き切る」ことがゴールになります。
結果として、
思考は浅くなり、
毎回似たような結論にたどり着きます。
問題が曖昧なまま始めてしまう
なぜなぜ分析は、
分析対象が明確であることが前提です。
しかし実際には、
- 問題が大きすぎる
- 複数の問題が混ざっている
- 現象と問題が区別されていない
といった状態のまま、
なぜなぜ分析が始まることがあります。
この状態では、
どれだけ「なぜ」を繰り返しても、
焦点が定まらず、
納得感のある結論にはなりません。
「原因を出す作業」だと誤解されている
なぜなぜ分析は、
原因を一つに決めるための作業ではありません。
しかし現場では、
- 正解の原因を一つに絞り込む
といった意識で使われることがあります。
この前提に立つと、
議論は早く終わりますが、
本質的な理解にはつながりません。
なぜなぜ分析は、
原因候補を深掘りし、理解を深めるための思考プロセス
であることを押さえておく必要があります。
人の問題に帰着しやすい
形骸化したなぜなぜ分析では、
次のような言葉で止まりがちです。
- 意識が低い
- 注意不足
- 経験不足
これらは、
原因のように見えて、
実際には説明になっていません。
人の問題で終わらせてしまうと、
改善は属人的になり、
再発防止につながりません。
次の工程を意識せずに行われている
なぜなぜ分析は、
問題解決の途中工程です。
しかし、
分析の結果をどう使うかが決まっていないまま
実施されることも少なくありません。
- どのレベルの対策につなげるのか
- 誰が判断し、誰が動くのか
これが曖昧だと、
なぜなぜ分析は
「やった感」だけが残る作業になります。
なぜなぜ分析を始める前に確認すべき前提
なぜなぜ分析を形骸化させないためには、
「どう掘るか」よりも前に、
始める条件が整っているかを確認することが重要です。
この前提が曖昧なままでは、
どれだけ丁寧になぜを重ねても、
改善につながる分析にはなりません。
分析対象の問題は一つに絞られているか
なぜなぜ分析は、
一つの問題を深く掘るための手法です。
- 問題が大きすぎないか
- 複数の問題が混ざっていないか
を、分析前に必ず確認します。
例えば、
「不良が多い」という状態のままではなく、
「特定工程で発生している特定不良」
といったレベルまで絞れているかが重要です。
問題はすでに構造化されているか
なぜなぜ分析は、
問題を構造化した次の工程です。
構造化ができていない状態でなぜなぜを始めると、
論点がずれたり、
途中で別の問題に話が移ったりします。
- どの問題を今回扱うのか
- 他の問題とどう切り分けたのか
が共有されていることが前提になります。
現象と問題が混同されていないか
なぜなぜ分析では、
現象と問題の区別も重要です。
- 現象:起きている事実
- 問題:本来あるべき姿とのズレ
この区別が曖昧なまま分析を進めると、
「なぜ起きたか」ではなく
「どう感じたか」の議論になりやすくなります。
分析の目的が共有されているか
なぜなぜ分析の目的は、
原因を決めることではありません。
- どこに手を付けるべきかを判断する
- 次の対策検討につなげる
といった目的が、
関係者間で共有されているかを確認します。
この目的が明確であれば、
「どこまで掘るか」も自然に決まります。
その場で対策を決めない前提になっているか
なぜなぜ分析の場で、
すぐに対策を決めようとすると、
原因の掘り下げが浅くなります。
- 今日は原因を整理する場
- 対策は次の工程で検討する
という役割分担があることで、
なぜなぜ分析は本来の力を発揮します。
「なぜ」の問いが浅くなる典型パターン
なぜなぜ分析が形骸化するかどうかは、
「なぜ」の問いの質が重要です。
問いが浅いと、
回数を重ねても理解は深まりません。
ここでは、現場でよく見られる
典型的なパターンを整理します。
人の意識や注意に帰着してしまう
最も多いのが、
次のような問いと答えで止まるケースです。
- なぜ起きたのか
→ 作業者の注意不足 - なぜ注意不足だったのか
→ 意識が低かった
これは、
原因を説明しているようで、
実際には何も説明していません。
意識や注意は測れず、
再現性もありません。
この段階で止まってしまうと、
改善は属人的になります。
再現性があるのか、確認すべきでしょう。
評価や感想の言葉で問いが終わる
次に多いのが、
評価や感想が混じるパターンです。
- 慣れていた
- 忙しかった
- ベテランだから大丈夫だと思った
これらは、
現場の実感としては理解できますが、
原因としては不十分です。
「なぜ」を深める際は、
事実として確認できる表現かどうか
を常に意識する必要があります。
現象を言い換えているだけになっている
問いを重ねているつもりでも、
実際には同じことを
言い換えているだけのケースもあります。
- なぜ不良が出たのか
→ 作業ミスがあった - なぜ作業ミスがあったのか
→ 正しく作業できていなかった
このような問いは、
理解を深めているようで、
本質的には進んでいません。
問いが
「条件・仕組み・流れ」
に向いているかを確認することが重要です。
推測で問いを進めてしまう
なぜなぜ分析では、
事実と推測が混ざりやすくなります。
- たぶん〇〇だった
- おそらく△△が原因
推測がすべて悪いわけではありませんが、
推測だけで問いを進めると、
議論は感覚的になります。
推測を使う場合は、
「事実として確認できているか」
「仮説として扱っているか」
を明確にしておく必要があります。
「これ以上掘れない」と思い込んでいる
「もうこれ以上、なぜは出てこない」
と感じる場面もあります。
しかし多くの場合、
掘れないのではなく、
問いの向きが合っていないだけです。
- 人ではなく、仕組みを見る
- 行動ではなく、条件を見る
問いの向きを変えることで、
思考は再び進みます。
原因と対策を分けて考える重要性
なぜなぜ分析の途中で、
議論が止まってしまう大きな原因の一つが、
原因と対策を混同してしまうことです。
この混同が起きると、なぜを深掘りする前に
「何をやるか」の話に移ってしまいます。
対策の言葉が出たら、原因分析は止まる
なぜなぜ分析の場で、
次のような言葉が出てきたら注意が必要です。
- 教育を強化する
- チェックを増やす
- 注意喚起を徹底する
これらは、
原因ではなく対策の方向性です。
この段階で対策が出てくるということは、原因の整理がまだ十分でない
というサインでもあります。
原因は「起きた理由」を説明する言葉
なぜなぜ分析で扱う原因は、
「何をすればよいか」ではなく、
「なぜその問題が起きたのか」を説明する言葉です。
- 条件がどうなっていたのか
- 仕組みやルールはどうだったのか
- どこに判断の余地があったのか
こうした視点で表現されているかを確認する必要があります。
評価や精神論は原因にならない
原因として挙がりやすい言葉の中には、評価や精神論が含まれることがあります。
- 意識が低い
- 気が緩んでいた
- ベテランだから油断した
これらは、
現場の実感としては理解できますが、原因としては不十分です。
なぜなぜ分析では、再現性のある説明になっているか
を基準に考えます。
原因は「変えられる前提」で考える
なぜなぜ分析の目的は、
改善につなげることです。
そのため、
原因は「変えられるもの」である必要があります。
- 仕組み
- 条件
- 流れ
- 判断基準
といった要素に言い換えられるかどうかが、
一つの判断軸になります。
原因は仮説として扱う
なぜなぜ分析で出てきた原因は、
確定事項ではありません。
あくまで、
改善につながりそうな仮説として扱います。
- 本当にそうなのか
- 他にも影響している要因はないか
を確認しながら、
次の工程である対策検討へ進みます。
このように、
原因と対策を明確に分けて考えることで、
なぜなぜ分析は「考えるための道具」として機能します。
「なぜ」は何回まで掘ればよいのか
なぜなぜ分析という言葉から、
「なぜは5回掘るもの」
というイメージを持たれることがあります。
しかし実際には、
回数そのものに意味はありません。
重要なのは、
「どこまで掘れば、次の判断に使えるか」
という視点です。
回数は目安であり、目的ではない
「5回」という数字は、
思考を止めないための目安にすぎません。
- 3回で十分な場合もある
- 6回、7回と掘る必要がある場合もある
回数を目的にしてしまうと、
問いは形式的になり、
深さよりも数を優先してしまいます。
これ以上掘っても改善につながらないサイン
なぜを掘り進める中で、
次のような状態になったら、
一度立ち止まる判断が必要です。
- 原因が人の性格や意識に近づいている
- これ以上掘っても変えられる要素が出てこない
- 同じ内容を言い換えているだけになっている
この段階では、
深掘りそのものよりも、
対策検討に進むことが重要になります。
「仕組み・条件」にたどり着いているか
なぜなぜ分析が有効に機能している場合、
問いは次のような方向に向かいます。
- 判断基準が明確でなかった
- 条件が作業者任せになっていた
- 情報が適切なタイミングで渡っていなかった
こうした
仕組みや条件に関わる表現にたどり着いていれば、
十分に掘れていると判断できます。
次の工程が見えてきたら、掘り止める
なぜなぜ分析の目的は、
原因を確定することではありません。
- どこに手を付けるべきか
- 何を変えれば効果がありそうか
といった
次の工程(対策検討)に進む判断材料が
見えてきた時点で、
なぜなぜ分析は役割を果たしています。
「もう一段掘るべきか」を判断する問い
迷った場合は、
次の問いを自分に投げかけてみます。
- ここから先は、対策の話になっていないか
- 変えられない要因に近づいていないか
これらに当てはまるなら、
無理に「なぜ」を重ねる必要はありません。
このように、
なぜなぜ分析は
回数ではなく、到達点で判断する
ことが重要です。
なぜなぜ分析を改善につなげるための使い方
なぜなぜ分析は、正しく使えば、現場の理解を深め、改善の方向性を見極めるための
強力な思考ツールになります。
そのために重要なのは、
一度の分析で完璧な答えを出そうとしないことです。
原因は「仮説」として扱う
なぜなぜ分析で導き出された原因は、
あくまで仮説です。
- 本当にこの要因が効いているのか
- 他にも影響している条件はないか
を、次の工程で確認していく前提で扱います。
原因を「決め切る」よりも、
検証しやすい形で整理することが重要です。
対策は小さく試す前提で考える
なぜなぜ分析の結果から考える対策は、
最初から大掛かりである必要はありません。
- 一部の工程だけで試す
- 特定条件下で確認する
といったように、
小さく試せる形に落とし込むことで、分析結果は現場で活きてきます。
分析を一度きりで終わらせない
なぜなぜ分析は、一回やって終わりではありません。
- 対策を試す
- 結果を見る
- 必要であれば、もう一度なぜを掘る
この繰り返しによって、
問題理解は深まり、改善の精度も上がっていきます。
なぜなぜ分析は、
改善活動を支える思考のプロセスとして使い続けるものです。
まとめ
なぜなぜ分析が形骸化するかどうかは、
手法そのものではなく、
使う前提と問いの質で決まります。
- なぜを5回書くことが目的になっていないか
- 問題は一つに絞られているか
- 原因と対策が混ざっていないか
- 回数ではなく、到達点で判断しているか
これらを意識することで、
なぜなぜ分析は
「やらされる作業」ではなく、
改善につながる思考の道具になります。
なぜなぜ分析は、
原因分析の一つの手法にすぎません。
しかし、
正しく位置づけて使うことで、
現場改善を前に進める力を発揮します。


