現場改善が思うように進まないとき、
議論が一つの論点に偏ってしまうことがあります。
人のミスだ。注意しよう。間違えないようにしよう。
その場ではもっともらしく見えても、
全体を整理しないまま対策を進めると、
別のところで同じ問題が繰り返されます。
そこでおすすめしたいのが「MECE」の考え方です。
「漏れなく、ダブりなく整理する」と説明されますが、
抽象的な定義だけでは、現場でどう使えばよいのか分かりにくいものです。
本記事では、製造現場出身のコンサルタントが
MECEを単なる概念としてではなく、
現場改善で考えが偏らないための視点として整理します。
フレームワークを覚えることが目的ではなく、
改善を前に進めるための“整理の考え方”を確認していきます。
MECEとは何か(絡まった事象をほぐす視点)
MECEとは、
「漏れなく、ダブりなく」物事を整理する考え方です。
英語では
Mutually Exclusive(互いに重ならない)
Collectively Exhaustive(全体として漏れがない)
の略と説明されます。
ただし、現場改善において重要なのは、
この英語の意味を覚えることではありません。
MECEの本質は、
絡まり合った事象を整理し、全体像を見える形にすることにあります。
議論がまとまらない本当の理由
現場改善の議論がまとまらないとき、
意見が対立しているとは限りません。
多くの場合は、
複数の事象が絡まり合ったまま
同時に語られていることが原因です。
- 人の要因
- 設備条件
- 作業方法
- 材料の変化
これらが同時に存在しているにもかかわらず、
一つの論点だけを切り取って議論すると、
話は噛み合いません。
問題とは何か、課題とは何かが整理できていない場合は、まずは「問題と課題の違い」もあわせて確認しておくことをおすすめします。
問題は一つの原因で構成されない
現場で発生する問題は、
一つの原因だけでできていることはほとんどありません。
複数の条件や判断、環境要因が重なり合い、
結果として問題が表面化します。
そのため、
「これが原因だ」と一つに決めつける前に、
まずは事象を整理する必要があります。
問題を分解して全体像を見える形にする考え方については、「問題の構造化」で詳しく解説しています。
MECEは“ほぐすための整理の視点”
MECEで考えるとは、
- どんな種類の要因があるのか
- それぞれを別のグループとして整理できないか
- 抜けている要素はないか
を確認することです。
絡まった糸を一本ずつほどくように、
要素を分けて整理する。
その過程で、
どこに重なりがあり、
どこに本質的な影響があるのかが見えてきます。
MECEは、
分類を美しく行うための技術ではありません。
原因に近づくために、全体を見渡す整理の視点なのです。
整理した後にどのように深掘りしていくのかについては、「原因分析とは何か」で整理しています。
なぜ現場の議論は一つの論点に偏るのか
前章で述べたように、
現場で起きる問題は、複数の事象が絡まり合って発生します。
にもかかわらず、
議論は一つの論点に集中してしまうことが少なくありません。
なぜそのような偏りが起きるのでしょうか。
目に見えやすい要因に引っ張られる
現場では、
まず目に入る事象に注意が向きます。
- 作業者がミスをした
- 設備が止まった
- 手順が守られていなかった
こうした“分かりやすい出来事”は、
議論の中心になりやすい傾向があります。
しかし、それは
複数の要因のうちの一つに過ぎない可能性があります。
経験則が優先されやすい
製造現場では、
過去の経験や成功事例が強い影響を持ちます。
「前も人の注意不足だった」
「この設備は昔から弱い」
こうした経験則は重要ですが、
同時に思考を一方向に固定してしまうこともあります。
結果として、
他の要因を検討する前に
原因を決めつけてしまうことがあります。
部門視点で止まってしまう
現場改善には、
複数の立場が関わります。
- 現場
- 品質
- 設計
- 生産管理
それぞれが自分の担当領域から問題を見るため、
議論が部分最適にとどまりやすくなります。
全体を整理しないままでは、
それぞれの視点がぶつかり合い、
議論がまとまりません。
だからこそMECEの視点が必要になる
問題が複雑で、
複数の要因が絡み合っているからこそ、
一つの論点に偏るリスクが高まります。
その偏りを防ぐために、
いったん事象をグループに分け、
全体像を俯瞰する必要があります。
MECEの視点は、
議論をきれいにするためのものではなく、
偏りを防ぎ、原因に近づくための整理手段です。
MECEは“型を覚える”ことではない
ここまで見てきたように、
現場の問題は複数の事象が絡まり合って発生します。
その絡まりをほぐすために、
MECEの視点で整理することが有効です。
しかしここで注意しなければならないのは、
MECEは“型を覚えること”が目的ではないという点です。
フレームワーク暗記では整理にならない
MECEを学ぶと、
- 4Mで分けよう
- QCDで整理しよう
といった“型”を思い浮かべます。
確かにこれらは有効な整理軸です。
しかし、ただ形式的に当てはめるだけでは、
絡まりはほどけません。
重要なのは、
「どの切り口で分ければ全体が見えるか」
を考えることです。
型は“視点を広げるため”に使う
4MやQCDといった整理軸は、
思考を広げるための補助線です。
- 人だけで考えていないか
- 品質だけを見ていないか
- コストや納期への影響はどうか
と自問することで、
偏りを防ぐことができます。
型を覚えることが目的ではなく、
抜けや重複に気づくための視点を持つことが本質です。
型に頼りすぎることのリスク
一方で、型を過信すると、
現実に合わない分類を無理に作ってしまうこともあります。
- 無理に4Mに当てはめる
- きれいに分けることにこだわる
こうなると、
整理のための道具が、
逆に思考を縛ってしまいます。
MECEは、
きれいな分類を作るためのものではなく、
絡まりをほぐすための手段です。
4MやQCDで整理すると何が変わるのか
MECEの視点を現場に落とすとき、
有効な整理軸となるのが4MとQCDです。
ここで重要なのは、
4MやQCDを覚えることではありません。
4Mは「生産要素」、
QCDは「生産価値」を整理するための視点だということです。
4Mは“生産要素”を分けて見る視点
製造現場で起きる問題は、
必ず何らかの生産要素に関係しています。
- 人
- 設備
- 材料
- 方法
これらが4Mです。
問題が発生したとき、
議論が「人」に集中しがちなのは、
目に見えやすいからです。
しかし、生産は
複数の要素が組み合わさって成り立っています。
4Mという視点で整理することで、
どの生産要素に影響があったのかを
漏れなく確認できます。
これは、
絡まり合った事象を“生産要素単位”でほぐす作業です。
QCDは“生産価値”を整理する視点
一方で、
改善は単に要素を整えることが目的ではありません。
生産の最終的な目的は、
価値を生み出すことです。
- 品質(Quality)
- コスト(Cost)
- 納期(Delivery)
これがQCDです。
4Mが「何が原因か」を見る視点だとすれば、
QCDは「何に影響するか」を見る視点です。
対策を考える際も、
- 品質は向上するか
- コストは増加しないか
- 納期への影響はないか
と整理することで、
部分最適ではなく、全体最適に近づきます。
生産要素と生産価値の両面から整理する
問題は、
一つの生産要素だけで構成されているわけではありません。
同時に、
一つの価値だけに影響するわけでもありません。
4M(生産要素)で原因の広がりを確認し、
QCD(生産価値)で影響の広がりを確認する。
この両面から整理することで、
絡まりは徐々にほどけていきます。
MECEの視点とは、
こうした整理を通じて
偏りなく全体を見渡すことなのです。
MECEの落とし穴と注意点
MECEは有効な整理の視点ですが、
使い方を誤ると逆効果になることもあります。
特に注意すべきなのは、
分類すること自体が目的化してしまうことです。
きれいに分けることがゴールになっていないか
4MやQCDで整理すると、
議論は整ったように見えます。
しかし、
- 分けただけで終わっていないか
- その整理が原因究明につながっているか
を確認しなければ、
形式的な作業になってしまいます。
MECEは、
“整理して満足するため”のものではありません。
無理に当てはめると現実から離れる
すべてを4MやQCDにきれいに当てはめようとすると、
かえって現実を歪めることがあります。
現場は常に複雑で、
要素同士が相互に影響しています。
整理はあくまで思考を助けるためのものであり、
現実そのものではありません。
型は道具であり、
現実を理解するための補助線です。
整理のあとに「深掘り」が必要
MECEで整理することで、
事象の絡まりはある程度ほぐれます。
しかし、それは出発点にすぎません。
- どの生産要素が本質的なのか
- どの価値に最も影響しているのか
を見極めるためには、
さらに深掘りが必要です。
MECEは、
原因に“近づく”ための整理であって、
原因そのものではありません。
原因を具体的に掘り下げる方法については、「なぜなぜ分析をやりっぱなしにしないために押さえるべきこと」も参考になります。
まとめ
MECEとは、
単なる「漏れなく、ダブりなく」という定義ではなく、
絡まり合った事象をほぐすための整理の視点です。
現場の問題は、
- 複数の生産要素(4M)が関わり
- 複数の生産価値(QCD)に影響します。
だからこそ、
一つの論点に偏らず、
全体を見渡す必要があります。
MECEは、
フレームワークを覚えることが目的ではありません。
偏りを防ぎ、
議論を正しい方向に進めるための
思考の土台です。
議論の順番や整理の基本については、「現場改善に必要なロジカルシンキングとは」もあわせてご覧ください。


