製造現場で問題を整理し、
「ありたい姿」「あるべき姿」とのギャップが見えても、
そこで改善が止まってしまうケースは少なくありません。

その理由の多くは、
問題が“行動できる形”に変換されていないことにあります。

問題は、現状を正しく捉えるための言葉です。
一方で、現場を動かすためには、
「何に取り組むのか」が明確になった課題が必要になります。

問題をそのまま並べても、
改善テーマは定まらず、
「とりあえず何かやる」という状態になりがちです。

本記事では、
**問題を前向きな取り組みの言葉に変える「課題形成」**について、
製造現場の実務に即した考え方を整理します。

課題形成とは何か

課題形成とは、
問題として捉えた「姿とのギャップ」を、現場で取り組める行動の言葉に変えることです。

前の記事で整理した通り、
問題は「ありたい姿」「あるべき姿」と現状との間に生じているギャップを指します。
これは、現状を正しく理解するために不可欠な整理です。

しかし、問題を認識しただけでは、
現場はまだ動きません。

改善を前に進めるためには、
その問題を 「では、何に取り組むのか」 という形に変換する必要があります。
この変換のプロセスが、課題形成です。


課題は「問題の言い換え」である

課題形成を難しく感じる原因の一つは、
課題を「新しく考えるもの」だと捉えてしまうことにあります。

実際には、
課題は問題とは別物ではありません。

問題の意味を逆転させ、前向きな取り組みの言葉に置き換えたもの
それが課題です。

例えば、

  • 作業が人によってばらついている
    → 作業方法を揃えるために、標準化する
  • 段取りに時間がかかっている
    → 段取り作業を分解し、効率化する

このように、
問題を否定的に表現するのではなく、
「どうなればよいか」「何に取り組むか」という視点に切り替えます。


課題形成の役割

課題形成の役割は、
問題と改善活動の間をつなぐことです。

  • 問題:現状把握のための言葉
  • 課題:行動に移すための言葉

この役割を理解せずに改善を始めると、
「とりあえず何かやる」「思いついた対策を並べる」
といった状態になりがちです。

課題が明確になることで、
改善は初めて「狙いを持った取り組み」になります。


課題形成は現場を前向きにする

もう一つ重要なのは、
課題形成が現場の空気を変える点です。

問題をそのまま並べると、
どうしても「できていないこと探し」になり、
現場は身構えてしまいます。

一方で、
課題として表現することで、

  • 何を改善すればよいのか
  • どこから手を付けるのか

が明確になり、
現場は前向きに議論しやすくなります。

課題形成は、
単なる言葉の整理ではなく、
改善に向かう土台を整えるプロセスと言えます。

なぜ問題が見えても改善が進まないのか

現場では、
不良が多い、残業が減らない、段取りに時間がかかるなど、
問題そのものは見えているケースがほとんどです。

それにもかかわらず、
改善が進まない、あるいは途中で止まってしまう現場が多く見受けられます。
その背景には、共通した構造があります。


問題が「気づき」で止まっている

問題を「姿とのギャップ」として整理できていても、
それが単なる気づきで終わってしまうことがあります。

  • 理想と違うことは分かっている
  • このままでは良くないことも分かっている

しかし、
「では、何に取り組むのか」が言葉になっていないため、
行動に移れない状態です。

問題は認識できているのに、
改善テーマとして共有されていない。
これが、改善が進まない最初の壁です。


課題が曖昧なまま改善を始めている

改善が進まない現場では、
課題が曖昧なまま、いきなり改善活動が始まっていることがあります。

  • とりあえず5Sをやる
  • 教育を強化する
  • 会議で注意喚起する

一見、改善に取り組んでいるように見えますが、
「なぜそれをやるのか」が共有されていないため、
現場の納得感が得られません。

結果として、
改善が一時的な取り組みで終わってしまいます。


課題が「やること」になっている

本来、課題は
「取り組むべきテーマ」を示すものですが、
実際には「具体的な作業」や「対策」と混同されがちです。

  • チェックリストを作る
  • 表を更新する
  • マニュアルを書く

これらは手段であり、課題そのものではありません。

課題が「やること」レベルで止まってしまうと、
全体像が見えず、改善の方向性もぶれやすくなります。


課題が重くなりすぎている

もう一つよくあるのが、
課題を一気に解決しようとしてしまうケースです。

  • 属人化を解消する
  • 不良をゼロにする
  • 生産性を大幅に向上させる

方向性としては正しくても、
具体的な取り組みに落とし込めないため、
結果として何も進まなくなってしまいます。

課題は、
現場で扱える大きさに切り出すことが重要です。

課題形成の基本的な考え方

課題形成は、
特別なフレームワークや難しい分析手法がなくても進めることができます。
重要なのは、考える順番と視点です。

ここでは、現場で課題形成を行う際に押さえておきたい基本的な考え方を整理します。


問題をそのまま嘆かない

問題を認識すると、
つい「なぜできていないのか」「誰が悪いのか」といった
原因探しや評価に意識が向きがちです。

しかし、課題形成の段階では、
問題を評価したり、結論を急いだりする必要はありません。

まずは、
姿と現状の間にどのような差があるのか
を事実として受け止めることが重要です。

問題は、解決策を急ぐための材料ではなく、
課題を導き出すための出発点です。


問題の意味を逆転させる

課題形成の核心は、
問題の意味を逆転させることにあります。

例えば、

  • 作業が安定していない
  • 手戻りが発生している
  • 段取りに時間がかかっている

といった問題は、
そのままでは行動につながりません。

ここで視点を変え、

  • 作業を安定させるには何が必要か
  • 手戻りを減らすために整えるべき点は何か
  • 段取り時間を短縮する余地はどこにあるか

と問い直すことで、
前向きな取り組みの言葉へと変換できます。

この変換が、課題形成です。


課題は「どうするか」ではなく「何に取り組むか」

課題を設定する際に注意したいのが、
いきなり「どうするか」を決めてしまうことです。

  • マニュアルを作る
  • チェックを増やす
  • 教育を強化する

これらはすべて手段であり、
課題ではありません。

課題は、
「何に取り組むのか」を示すテーマです。

例えば、

  • 作業ばらつきを抑えるための標準を整理する
  • 段取り作業の流れを見直す

といった表現であれば、
具体策を検討する余地が残ります。


課題は現場で扱える大きさにする

課題が抽象的すぎたり、
範囲が広すぎたりすると、
改善は動きません。

  • 属人化をなくす
  • 不良をなくす
  • 生産性を上げる

これらは方向性としては正しくても、
現場で扱うには大きすぎます。

課題形成では、
現場で議論でき、手を付けられる大きさまで落とす
ことが重要です。

課題として適切な表現とは何か

課題形成がうまくいかない原因の多くは、
課題そのものの表現にあります。

同じ内容でも、
表現の仕方によって、
改善につながる課題にも、形だけの課題にもなります。

ここでは、
適切な課題表現の考え方を整理します。


課題は「否定」ではなく「取り組み」で表現する

課題がうまく機能しない例として、
次のような表現があります。

  • 作業ミスが多い
  • 教育が足りていない
  • 管理ができていない

これらは問題の指摘であり、
課題としては不十分です。

一方で、
次のように言い換えると、
取り組む方向性が見えてきます。

  • 作業ミスを防ぐための仕組みを整える
  • 教育の進め方を整理する
  • 管理方法を見直す

課題は、
「できていないこと」ではなく、
これから整えること・取り組むこととして表現します。


課題は「状態」ではなく「テーマ」で示す

課題が曖昧になるもう一つの理由は、
状態の説明で止まってしまうことです。

  • ばらつきがある
  • 時間がかかっている
  • 分かりにくい

これらは状態を表しているだけで、
改善テーマにはなっていません。

課題として表現する際には、
その状態に対して
どの観点を整えるのかを示します。

  • ばらつきを抑えるために、作業条件を整理する
  • 時間がかかっている工程の流れを見直す
  • 分かりにくい手順を可視化する

課題は「手段」を含めすぎない

課題の中に、
具体的な手段を入れすぎてしまうと、
考える余地がなくなります。

例えば、

  • チェックリストを作成する
  • マニュアルを更新する

といった表現は、
すでに「やること」が決まっています。

課題は、
どのような手段が適切かを検討する余地を残す
表現にすることが重要です。


良い課題に共通する特徴

現場で機能する課題には、
次のような共通点があります。

  • 問題(姿とのギャップ)とつながっている
  • 何に取り組むのかが分かる
  • 具体策を複数検討できる余地がある

これらを満たしていれば、
課題は改善活動の軸として機能します。

現場で使える課題形成の進め方

課題形成は、
センスや経験に頼らなくても、
一定の手順を踏めば誰でも進めることができます

ここでは、
現場で実際に使える進め方を整理します。


姿と現状を並べて書き出す

最初に行うのは、
姿(ありたい姿・あるべき姿)と現状を並べることです。

  • 本来どうなっているべきか
  • 実際にはどうなっているのか

この二つを、
評価や意見を交えずに書き出します。

ポイントは、
いきなり原因や対策を考えないことです。
まずは、状態を並べるだけで構いません。


ギャップを一文で表現する

次に、
姿と現状の差を 一文で表現 します。

例えば、

  • 作業方法にばらつきがある
  • 工程ごとの段取り時間に大きな差がある

この一文が、問題の整理です。

長くなる場合は、
無理にまとめず、
複数のギャップに分けても構いません。


ギャップを前向きな言葉に言い換える

次に行うのが、
課題形成の核心となるステップです。

整理したギャップを、
前向きな取り組みの言葉に言い換えます

  • 作業方法にばらつきがある
    → 作業方法を揃えるための基準を整理する
  • 段取り時間に差がある
    → 段取り作業の流れを整理し、時間短縮の余地を明らかにする

この段階では、
具体的な対策まで決める必要はありません。


課題の大きさを調整する

言い換えた課題が、
現場で扱える大きさになっているかを確認します。

  • すぐに手を付けられそうか
  • 担当や範囲を決められそうか

もし大きすぎる場合は、
さらに分けて考えます。

課題形成の目的は、
改善を動かすことです。
扱えない大きさの課題は、
動かない課題になります。


課題を共有し、認識をそろえる

最後に、
形成した課題を関係者で共有します。

  • この課題は何を目指しているのか
  • どの問題(ギャップ)から生まれたのか

この点が共有されることで、
改善活動は「やらされ感」ではなく、
納得感を持った取り組みになります。

課題形成ができると何が変わるのか

課題形成ができるようになると、
現場の改善活動は大きく変わります。

これは、
特別な手法を導入したからではなく、
考え方の順番が整うからです。


改善テーマがぶれなくなる

課題が明確になると、
「なぜこの改善に取り組むのか」が共有されます。

  • 思いつきの改善
  • その場の雰囲気で決まるテーマ

こうした状態から脱し、
改善活動に軸が生まれます。

結果として、
改善が途中で変わったり、
立ち消えになったりすることが減っていきます。


現場の納得感が高まる

課題が問題(姿とのギャップ)と結びついていると、
現場は改善の必要性を理解しやすくなります。

  • なぜ今これに取り組むのか
  • 何を良くしようとしているのか

が明確なため、
改善が「やらされ仕事」になりにくくなります。

これは、
改善を継続するうえで非常に重要な変化です。


次のステップに進みやすくなる

課題形成ができると、
次にやるべきことが自然に見えてきます。

  • 課題を分解する
  • 原因を整理する
  • 対策を検討する

課題形成は、
問題解決のゴールではなく、
次のステップにつなぐための起点です。

この流れができることで、
改善活動は一過性ではなく、
積み上がるものになります。


まとめ

課題形成とは、
問題として整理した「姿とのギャップ」を、
現場で取り組める行動の言葉に変えるプロセスです。

  • 問題は、現状を正しく捉えるための言葉
  • 課題は、前に進むための取り組みの言葉

この二つを混同したままでは、
改善は場当たり的になり、定着しません。

一方で、
課題形成ができるようになると、
改善活動は筋道を持ち、
次の「構造化」「原因分析」へと自然につながっていきます。

まずは、
問題を嘆くのではなく、
どのギャップを、どんな取り組みに変えるのか
を言葉にするところから始めてみてください。

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この記事を書いた人

GFC 上村正和
GFC 上村正和 中小企業診断士・日本生産性本部認定経営コンサルタント・1級販売士

職人一筋、木工加工から精密金属加工までを経験。精密金属加工会社では工場長を務める。現在は、中小製造業を対象に現場が活きる経営のサポートを行っている。コンサルティングを中心にのべ100社の支援実績。「日本の製造業をもう一度世界一にしたい!」という想いで支援を続けている。